2017.10.25 10:48『天使の翼』第8章(26) シャルルが、大きく息を吸い込んだ―― 詩人にとって 詩を歌うのは 喜びの最たるもの―― そこで、彼は、腕を広げ、天を仰ぐようにした。――シャルルったら、歌うだけでなくパフォーマンスまで……会場の人々は、うっとりとシャルルの姿を見ている――それは、わたしのギターの音色、シャルルの歌う様子、そして、何よりも、シャルルの声質ではなかろうか……改めて聞くシャルルの声は、低声域から高声...
2017.10.20 10:47『天使の翼』第8章(25) わたしは、長年の経験から、こういう状況でいい歌を披露できれば、大きな賞賛を得て、会場がさらに盛り上がることを知っていた――逆になると悲惨である――わたしは、反射的に男性詩人の方を見た。彼からは、ニヤリと、瞬き一つのウインクが返されてきた。彼にも、今のこの会場の状況が分かっているのだ――人並みの吟遊詩人なら誰でも、歌う場の空気が生き物であることを知っている…… 次にシャルルの方を見ると、驚いたこと...
2017.10.19 12:09『天使の翼』第8章(24) 第三組、我々の相手は、五十代と思しい、見るからにすれっからしの男性の吟遊詩人だった。 わたしとシャルルは、件の男性と三人、壇上に上り、スカルラッティをはじめとする貴賓席の面々に、膝を折って優雅に――たぶん大丈夫だったと思う――一礼して見せた。 スカルラッティからは、にこやかな笑みが返ってきた……もはや、外見からは、この人物が何を考えているのか一向に察知できないことは明らかだった…… 名簿の記載順...
2017.10.12 08:29『天使の翼』第8章(23) 歌合戦は、トーナメント方式で行われる。 年次感謝祭そのものは一週間続くが、歌合戦は、祭りの端を飾る二日間限りの催しだ。明日の夕刻には、決着がついていなくてはならない。出場希望者は相当多いようで、一回でもしくじれば、それで終わりだ。組み合わせ表が壇上に表示された途端、会場にざわめきが起きたけれど、実際には、相手の力量なんてさっぱり分からない……分かっているのは、表の上から順に対戦していくということ...
2017.10.05 07:33『天使の翼』第8章(22) わたし達は、今から、この男の前に出て、歌い手としての姿を晒すのだ……そして、その後、何食わぬ顔で取り入り、悪魔の懐に入ったところで、やおらとどめの一撃を刺す…… すべては行き当たりばったりと言って良く、どう転ぶかは、全く予断を許さない事態だった。 既に、この旅に出てから、それまでのわたしの人生では経験することのなかった、非情な現実――全く身の安全の保障されない、悪意と欲望の無法地帯――愛情とか道...
2017.10.02 11:15『天使の翼』第8章(21) そこまで考えたわたしは、シャルルの顔を振り返った。 シャルルもまた、わたしを振り返って、頷き返してきた―― 「吟遊詩人は、スカルラッティにとっての悔悛の聖女だ」 シャルルは、わたしの考えていた通りのことを、わたしの耳元に囁いた。 …… 気付くと、すでにスカルラッティは、話を終え、壇上の貴賓席に着いていた。遠目にも、地元の関係者らと気さくに談笑しているのが分かる。もし彼が本当に犯罪者であるなら、見...