『天使の翼』第8章(24)

 第三組、我々の相手は、五十代と思しい、見るからにすれっからしの男性の吟遊詩人だった。
 わたしとシャルルは、件の男性と三人、壇上に上り、スカルラッティをはじめとする貴賓席の面々に、膝を折って優雅に――たぶん大丈夫だったと思う――一礼して見せた。
 スカルラッティからは、にこやかな笑みが返ってきた……もはや、外見からは、この人物が何を考えているのか一向に察知できないことは明らかだった……
 名簿の記載順に従って、男性詩人が先に歌った。
 ――村の乙女が、美貌の修道僧にかなわぬ恋を寄せる物語……吟遊詩人らしく、現場の状況を取り入れている。朗々たる声が会場に響き渡り、フィナーレは、川の流れに身を投げた乙女を、切々たる哀感に声を震わせて歌い上げた……
 盛大な拍手の嵐が会場に巻き起こった。……わたしには、いささか感情過多に思えたのだけれど……うまいことは、認めざるを得ない……スカルラッティも、立ち上がって、惜しみない――振りをして?――拍手を送っていた。
 ここへ来て、会場の熱気は一気に盛り上がり、次に歌うわたしとシャルル、いえ、チャールズへの期待感が、ぴりぴりと肌に感じられるほどだった。