『天使の翼』第8章(23)

 歌合戦は、トーナメント方式で行われる。
 年次感謝祭そのものは一週間続くが、歌合戦は、祭りの端を飾る二日間限りの催しだ。明日の夕刻には、決着がついていなくてはならない。出場希望者は相当多いようで、一回でもしくじれば、それで終わりだ。組み合わせ表が壇上に表示された途端、会場にざわめきが起きたけれど、実際には、相手の力量なんてさっぱり分からない……分かっているのは、表の上から順に対戦していくということ。そして、わたし達、シャンタルとチャールズは、三十余組の上から三番目に位置しているということだ。
 早い順番、と言わざるをえない。吉と出るのか、凶と出るのか……わたしは、あれこれ思い煩わずに済む分、良しと考えることにした。
 あっという間に――わたしには、そしてたぶんシャルルにも、思えた――二組が終わった。
 分かったことが、二つある。
 一つは、歌い手は、歌は好きだが決してうまいとは言えない人――もちろん、歌は、人類共通の喜びだから、うまい下手は本来関係ないのだけれど――、うまいけれど、プロではない人、そして、吟遊詩人や町の音楽家といったプロ、その三つにはっきりと分かれる。
 二つには、一組目にいきなり吟遊詩人が登場したけれども、スカルラッティの表情に特別な変化は見られなかった――わたしには男好きのする女性に見えたのだけど……スカルラッティの関心を示す吟遊詩人には、特定の条件があるのだろうか……
 ちなみに、肝心のことを言い忘れていたけれど、勝敗は、会場の反応と、スカルラッティを含めた壇上の審査員の多数決で、その場で決まる。会場の持ち点は、全体の三割だ……うまいだけでは勝ち残れない、と言う事。ただ、幸いなことに、圧倒的に有利と思われる地元ウラールの歌い手は、ほとんど次に行われるキリヤック俗謡の部に回ってくれたようだ……