2017.09.28 09:07『天使の翼』第8章(20) ……その後に続いたスカルラッティの説教――と、言うべきか?――は、ここでは省略する。修道院の聖堂にある主祭壇画、そのメイン・パネルに描かれた聖女に関する話だった……わたしは、徐々に大きくなってくる、恐怖から激昂に至る感情の軌道を、周期の短い振り子のように行ったり来たりしていたので、とてものことに、細かくは話しを聞いていられなかった。スカルラッティの声が途切れ途切れにわたしの意識の端に上る……官能...
2017.09.26 10:11『天使の翼』第8章(19) 一見したところ、僧服を着た数名の随員の他、いかなる護衛も、ボディーガードも見当たらない……これは、厳密に言うと法に反している。帝国政府の勅任官には、必ず帝国宇宙軍の政府要人警衛局から警護の部隊が派遣される……わたしは、ちらりとシャルルの方を見た。シャルルも、そのことに気付いたと見え、小さく頷き返してきた。今それを聞くことはできなかったけれど、シャルルは、このことをどのように分析しているのだろう…...
2017.09.25 09:13『天使の翼』第8章(18) わたしとシャルルは、歌合戦の開始を前にしてざわつきだした会場へと急いだ。 受付には先日会った修道僧がいて、「急いで、急いで」とわたし達のことを手招きしている。 「これこれ、お若いの、大修道院長様のお話が始まってしまうわい!」 『大修道院長』――わたしもシャルルも、出演者席の一番後方のベンチに座って、本人が登壇してくるのを目の当たりにするまで、それが誰であるのか、すっかり失念していた。 外見的には...
2017.09.24 10:37『天空のエクリチュール』投稿! フォトエッセイ『天空のエクリチュール』に、記事を投稿しました。 仕事が忙しくて、『ぶきっちょな』わたしには、ブログとの両立が出来なかったことをお詫びします。 最近ようやくサイト管理担当の武田君に原稿や写真を回せるようになり、今日、実に久し振り……2ヶ月振りに大好きな自然教育園の森へと出かけたのですが…… ……そこで、2枚目の写真を撮ろうとしたその瞬間までうきうき気分だったわたしの眼前に、超絶的に...
2017.09.24 09:04『天使の翼』第8章(17) 「――しばらく会わないようにしよう」 わたしは、その言葉を聴いて、その『しばらく』が、結局、このまま別れることになってしまうような予感がした。 「分かったわ……」 言いながらも、見る間にまた、ジェーンの瞳からポロリ、ポロリと涙があふれだしてくる…… 「……私も気持ちの整理をしたいから――」 次の瞬間、ジェーンは、顔をくしゃくしゃにして泣き崩れてしまった――泣き崩れるといっても、立ったまま、溢れ出...
2017.09.23 03:52『天使の翼』第8章(16) 「ジェーン――」 「いいの!平気だから。……シャンタルさんとチャールズって、恋人同士だったのね……」 「いや――」 シャルルが慌てて手を上げた。でも、ジェーンは受け付けない。 「いいの、いいの。馬鹿にしないで――姉と弟で、今のあなた達みたいに抱き合うわけないわ……何だか……」 ジェーンは、指先で目頭を押さえた。 「……涙が出てきちゃった……」 「ジェーン――」 シャルルが、そっとジェーンの肩を抱...
2017.09.22 11:17『天使の翼』第8章(15) わたし達は、その後、しゃべることよりも思い煩う事の方の多い、ともすれば黙しがちの食事を終え、軽い練習をした。 練習といっても、シャルルが、歌詞を練りたいと言って、わたしがギターで曲を弾いたのだ――シャルルは、目を瞑って何やら口をもぐもぐさせていた。そして、いきなり、兄の写真を見せてくれ、などと言い出した。もちろん、わたしは、それがシャルルの創作活動の足しになるのならと、喜んで見せてあげた―― 「...