『天使の翼』第8章(19)
一見したところ、僧服を着た数名の随員の他、いかなる護衛も、ボディーガードも見当たらない……これは、厳密に言うと法に反している。帝国政府の勅任官には、必ず帝国宇宙軍の政府要人警衛局から警護の部隊が派遣される……わたしは、ちらりとシャルルの方を見た。シャルルも、そのことに気付いたと見え、小さく頷き返してきた。今それを聞くことはできなかったけれど、シャルルは、このことをどのように分析しているのだろう……宇宙軍の警護が付くということは、反面、監視という意味を持っている――詳細な日誌が記録として残されるからである。それを嫌ったスカルラッティが、プライバシー、特に彼の犯罪的行為を隠蔽するために、警護を拒否したに違いない――このことには、もっと早く気付くべきだった――あまたの警護に囲繞されているスカルラッティに何故恐ろしい犯罪が犯せるのか、と……しかし、法的には拒否することは認められていないのである。警護の担当官が、賄賂を受け取ってこのことを黙認し、スカルラッティの側から提出された日程表を、そのまま公式記録に移し変えて本部に送っているに違いない。……また、彼のような高位にありながら警護を付けずに平気でいられるというところに、異常な性格が見え隠れしていないだろうか?……異常に膨れ上がった自信、それとも、彼自身が恐ろしいことをしているので、怖いものは何もない、ということか……
「名誉ある聖女の遺徳を守る偉大なる修道院の僧らよ!」
スカルラッティが、声を張り上げた。彼の声の質は、どちらかと言うと甲高い、ということに改めて気付いた。
「――美しきウラールの森に抱かれし優しき村人らよ!そして、この感謝の祭りに集われし異星の客人に告ぐ!今、ここに、余、スカルラッティの名において――」
ここで、スカルラッティは、大仰に両腕を天へと突き出した。
「――年次感謝祭を開催せん!」
ここで初めて、晴天下の会場に響き渡るファンファーレが奏された。

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