『天使の翼』第8章(16)

 「ジェーン――」
 「いいの!平気だから。……シャンタルさんとチャールズって、恋人同士だったのね……」
 「いや――」
 シャルルが慌てて手を上げた。でも、ジェーンは受け付けない。
 「いいの、いいの。馬鹿にしないで――姉と弟で、今のあなた達みたいに抱き合うわけないわ……何だか……」
 ジェーンは、指先で目頭を押さえた。
 「……涙が出てきちゃった……」
 「ジェーン――」
 シャルルが、そっとジェーンの肩を抱いた。とても自然だったので、ジェーンの気持ちも少し落ち着いてきた。シャルルの肩越しにわたしを見てにこりとして見せた。
 「姉と弟だなんて、表向きの営業用の看板だったのね……今から思えば、怪しいことだらけだったわ……」
 「……」
 わたしとシャルルは、まるで悪戯の現場を押さえられた子どものようで、最初この状況に対処しかねていた。

 長引きそうになった沈黙をジェーンが破った。
 「――チャールズ、一つだけ教えてちょうだい。そのうち教えてくれるつもりだったんでしょ――実は恋人同士なんだって?」
 「もちろんだよ、ジェーン。そのつもりだった」
 わたしは、さっとシャルルの顔を見た。それが初耳だったからだけど、この場をどうやって切り抜けるのか……
 「僕たち、少しでも名を上げて、銀河の名だたる宮廷で歌うことを夢見ている」
 「……」
 「真剣なんだ。どうか悪く思わないでほしい――それと、この際だから一つお願いがある。後で色々言われないよう、大会の関係者である君との距離を置いておきたいんだ――」
 ジェーンがこくりと頷いた。――シャルルのような男性にこんな風に説得されては、否とは言いにくい。……シャルルの話は、虚実織り交ぜながらも、一本筋が通っている――ジェーンの身の安全を守るという……嘘だけど、嘘じゃない。