2018.01.31 01:39『天使の翼』第8章(40) 指揮官の僧は頷いて、一歩下がり、部下を集めた。ひそひそと話す声がわたし達に聞こえても、大して気にならないのか―― 「まったく、あの男は!」 「どこで油を売ってるんでしょうね」 「油なら良いが、薬をやってるんじゃ……」 ここで少し声が小さくなる。 「猊下があのようなものを身近に侍らせるとは、どうにも納得がいかん……仕方ない。君の小隊で様子を見てきてくれ……見付からないときは、ヨットを回収してこい」...
2018.01.30 10:21『天使の翼』第8章(39) エアバイクを地上に降ろして待つ間もなく、わたし達のバイクの前後を挟むように急降下した、メタリックシルバーの新車と思しいエアカーから、ばらばらっと五、六名の搭乗員が降り立った。何と、彼らは、僧官――僧兵だった。全員が、ニードルガンが子供の水鉄砲に見えるような必殺の物々しい銃器を構えており、わたしは、何もする前に逮捕されるのではと緊張した。 「名乗られよ」 そう言って一歩進み出たのは、指揮官らしき中...
2018.01.29 11:13『天空のエクリチュール』投稿! フォトエッセイ『天空のエクリチュール』に、記事を投稿しました。 抜けるような青空に白壁が映える。久しぶりに訪れたアールデコの殿堂、旧朝香宮邸(東京都庭園美術館)は、やっぱり別世界でした……
2018.01.29 01:30『天使の翼』第8章(38) ジェーンからもらった絵地図によると、スカルラッティの山荘――規模的には、離宮という表現の方が当たっているだろう――は、渓谷を20標準キロ程遡ったところにあった。 本来エアバイクを、誘導路でも、普通道でもないところを飛ばすのは、大変危険なことなのだけれど、他に手段もなく、あまり時間に遅れる訳にもいかないので、わたし達は――もちろんわたしの運転で――渓谷の上を飛んだ。 幸いなことに、アクィレイアの月...
2018.01.28 08:53『天使の翼』第8章(37) わたし達は、誰もいないスカイ・ポートに戻った。 まず、船内を再チェックする。誰かが戻っているとも限らない…… 安全を確認したわたし達は、再度船外に出て、わずかだが散っていた血痕に砂をかけ、黙々と応急の手当てをした。 「……僕としたことが……一つ気付いたんだが……」 わたしは、思わず緊張してシャルルの顔を見た。 「スカルラッティがあの時の悪の手下を迎えによこしたということは、ぼくらが何者であるか気...
2018.01.27 12:16『天使の翼』第8章(36) シャルルに腕を摑まれて、わたしは、我に返った。 「君にこんなことをさせるのは忍びないのだけど、手を貸して欲しい……」 シャルルが上半身、わたしが両足を持った。重いとか、そういうことを言っている場合ではなかった。後に血痕を残さぬよう、頭部は男の上着でぐるぐる巻きにしてある。死んだ男の表情を見ないで済むのがせめてもの救いだった。わたし達は、手下の亡骸を森の中へと運んだ…… 「川に流すことにする」 茂...
2018.01.26 06:59『天使の翼』第8章(35) 「あの悪の手下には、女性の相棒がいた――」 わたしは、ハッとした。今頃気付くなんて、わたしはなんて―― 「君は、ここで待っていてくれ――」 シャルルは、わたしに反論する隙を与えず、バッグとギターをその場に残して、一気にスペース・ヨットまで駆けると、男の額からナイフを抜いて、血糊を男の上着でぬぐい、すっと開いていたハッチの中に姿を消した。 自分の心臓の鼓動だけが友達の、長くつらい待ち時間が過ぎて、...
2018.01.04 05:04『天使の翼』第8章(34) 夕闇迫るウラールの森―― わたしは、シャルルと二人、無言で歩んだこの夜のことを生涯忘れることはないだろう。人気のない森が、わたしの不安を――何度も何度も心の壁の向こうに追いやるのだけれど――気付いた時には、心の中いっぱいに染み出させてしまう…… ようやく、前方にスカイ・ポートが見えてきた。 ギラギラときつい照明に浮かび上がったスカイ・ポートは、狭かったが、いかにもスカルラッティのプライベート・ポ...