『天使の翼』第8章(40)

 指揮官の僧は頷いて、一歩下がり、部下を集めた。ひそひそと話す声がわたし達に聞こえても、大して気にならないのか――
 「まったく、あの男は!」
 「どこで油を売ってるんでしょうね」
 「油なら良いが、薬をやってるんじゃ……」
 ここで少し声が小さくなる。
 「猊下があのようなものを身近に侍らせるとは、どうにも納得がいかん……仕方ない。君の小隊で様子を見てきてくれ……見付からないときは、ヨットを回収してこい」
 「分かりました」
 「猊下に報告は?」
 「……いや、放っておけ。あの男、ちょっと不気味なところがある……くだらないことで恨まれたくない」
 身辺警護といっても、僧兵達のそれは、実におおらかなものだった……やはり、帝国宰相にしてはあまりに無防備な様に、スカルラッティの性格の異常性、あるいは、自分の行動を人に監視されたくはない、という作意が見え隠れする……
 腕の時計を見る――査察庁軍の到着まで、後70標準分――
 わたし達は、残った一台のエアカーの先導で離宮の屋上のスカイ・ポートに向かった。そこから先は、儀典担当と思しい僧官の案内で、晩餐の会場へと導かれた。