『天使の翼』第8章(41)
広間へと続く――ここが広間と言っても通用するような広い――控えの間は、こんな森の中の村だというのに、大勢の招待客らでごった返していた。わたし達は、ぎりぎりのところで晩餐に間に合ったようだ……そこここに人の輪ができ、さんざめいている……早々と食前酒に手をつけたものがいるかと思えば……
わたしは、シャルルと顔を見合わせた。招待客の後姿を見ただけで、違和感を覚えたのだ……村の感謝祭の夜会、というには、どうも社会的地位の高そうな客の姿が多い……もちろん、村人や一般市民もたくさん見受けられるのだが……
わたしは、急にシャルルに腕をつかまれた。彼の顔を見ると、広間の入り口の方に顎をしゃくって見せた――
わたしは、度肝を抜かれた。
半円形の階段の上にある、人の背丈の二倍程もある観音開きの扉の左右に、既におなじみの、白地に赤いふくろうと十字の描かれたアクィレイアの大司教旗、そして、緑の地に、白点が球状に配されたサンス大公国旗が、それぞれ、壁面の天地いっぱいを覆いつくさんばかりに張り出されていた……
この巨大な旗を見る限り、この晩餐会場のメイン・テーマは、どうやら、ウラール大修道院でも、年次感謝祭でもないようだ――
このような人里離れた場所で、誰にも報告されることなく、帝国宰相にして帝国屈指の領星貴族たるスカルラッティが、仮想敵国――もちろん保護国だが――と友好を深めている――
大修道院の年次感謝祭を隠れ蓑にしているとも勘繰れる――
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