『天使の翼』第8章(42)
そもそも、宰相はサンス大公国に関する最近の情勢について報告を受けているのだろうか?
わたしは、そういった説明は一切受けずにこの旅に出てきた。すべては、厳秘という名のベールに包まれており、また、わたしにとっては、わたしとシャルルの使命が絶対の秘密である、というだけで事足りた、ともいえる。
情報総省・帝国宇宙軍、そして聖薬三庁は皇帝の直轄機関だから、皇帝陛下の話しぶりからしても、宰相は蚊帳の外に置かれているのか?
逆に、帝国の保安官庁は、帝国宰相とサンス大公国とのつながりを、どの程度把握しているのか?
次々と疑問がわいてくる――が、今ここでシャルルとそれを話す訳にはいかない……
そして、悩む間もなく、短い楽曲が奏され、観音開きの大扉が開いて、スカルラッティの登場と相成った。一見にこやかな笑みを浮かべて、招待客と握手を交わしていく。スカルラッティと共に登場したのは、昼間、歌合せの会場にいた、あの青年貴族――サンスの駐アクィレイア大使だ。
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