2017.11.22 14:21『天使の翼』第8章(30) スカルラッティが腕を伸ばした先を見ると、一目で貴族と分かる若い大使が、目礼を返してきた。 「どうだね。今日の勝敗にかかわらず、今宵の晩餐に来てはくれぬか」 文言こそ質問形だったが、事実上、既成の問題だった――誰が断れようか――。まして、わたし達にとっては、これ以上ない展開となった。スカルラッティに近付けるだけでなく、サンスへのコネができる……そして、何かしら釈然としない、心に引っ掛かるものが……...
2017.11.20 09:12『天使の翼』第8章(29) 次の瞬間、会場のそちこちでぱちぱちと拍手の音が上がり、それはすぐに、聴衆全体を巻き込んだ熱狂の渦と化した。 シャルルは、たちまち、壇上に飛び上がってきた村の乙女――と言うか、三十代、四十代と思しき女性まで……もう、表現はどうでもよい!――数人に囲まれて…… もみくちゃ……何てこと!どさくさにまぎれてキスしてる娘がいる! 場内整理の修道僧らが、慌てて引き離しにかかる……宗教上の祭礼にどっと押し寄せ...
2017.11.06 00:52『天使の翼』第8章(28) わたしの心配をよそに、曲は、『結』の部分を迎えた―― 何故、便りがないのだろう? 思う度、無数の可能性が心に浮かぶ ――今の生活に浸りきっていて 単に便りを出しそびれているだけなのか ――急に成長した姿を皆の前に現して 驚かそうというのだろうか ……どちらも、心優しい妹には似つかわしくない…… ……だとすれば…… ――だとすれば、 何か悪い巡...
2017.11.02 11:04『天使の翼』第8章(27) ふと気付いて、スカルラッティの表情を盗み見る。 まっすぐにシャルルを見据えるスカルラッティの表情に、険があるような…… でも、今は、歌が先…… シャルルは、『承』から『転』に入った―― 妹からの最後の手紙―― 最後の手紙が来たのがいつだったか、 僕は、もう忘れてしまった…… 三年前?四年前?…… ――考えると恐ろしくなる…… ……もう―― ――もう、妹は、この...