『天使の翼』第8章(30)

 スカルラッティが腕を伸ばした先を見ると、一目で貴族と分かる若い大使が、目礼を返してきた。
 「どうだね。今日の勝敗にかかわらず、今宵の晩餐に来てはくれぬか」
 文言こそ質問形だったが、事実上、既成の問題だった――誰が断れようか――。まして、わたし達にとっては、これ以上ない展開となった。スカルラッティに近付けるだけでなく、サンスへのコネができる……そして、何かしら釈然としない、心に引っ掛かるものが……この興奮状態の中では、それが何だか思い巡らすのは難しい……
 「喜んでお伺いします」
 気付いた時には、シャルルが答えていた。
 スカルラッティが満足げに頷いて、席の方へと帰っていく。
 わたしは、シャルルと話し合わねばならない事がたくさんある……


 ウラールの森が、夕闇の迫った青黒い空に黒々と浮かび上がっていた。
 この星の生態系の中で、鳥としての位置を占める、黒い羽の飛行生物が、塒へと帰るのだろうか、物悲しい叫びを発して、空を飛び交っていた。
 わたしとシャルルは、スカルラッティ付きの僧官に指定された、村はずれの森の中にあるスカイ・ポートへと急いでいた。エアバイクはそのまま置いてきたけれど、巡礼者用の宿舎は引き払ってきた。ジェーンに一言も言い残してこなかったことが、気にとがめる……
 わたし達は、みごと(?)三回戦で敗退していた。既にスカルラッティと会う約束はできていたし、明日急にわたし達が姿を消しても誰も怪しむことがない、という意味で、結果としては好都合だったけれど、最初にシャルルとした約束通り、決して手を抜いたり、わざと負けたりした訳ではない……敗軍の将多くは語らずで、この際くどくどと敗因の分析はしないでおく。