『天使の翼』第8章(27)
ふと気付いて、スカルラッティの表情を盗み見る。
まっすぐにシャルルを見据えるスカルラッティの表情に、険があるような……
でも、今は、歌が先……
シャルルは、『承』から『転』に入った――
妹からの最後の手紙――
最後の手紙が来たのがいつだったか、
僕は、もう忘れてしまった……
三年前?四年前?……
――考えると恐ろしくなる……
……もう――
――もう、妹は、この世にいないのではないか……
あの、美しく、華奢な、
僕を信頼しきって見詰めていた妹は、
今、どこに!
わたしは、ギターを絶叫させた!
わたしは、架空の『妹』という存在に、両親の、特に母の――若かった時のままわたしの記憶の中に生き続けている母の姿を重ね合わせていた。
わたしは、思いのたけを込めて、ギターを奏でた。――そうしながらも、わたしは、吟遊詩人としての修錬から、さりげなく、会場の様子を観察していた。
広場を所狭しと埋め尽くした人、人、人――その顔が皆、一様に、ある種の植物の大輪の花が、太陽の方向を追いかけ、顔を向けるように、わたしとシャルル……いえ、シャンタルとチャールズの方を向いている……聴衆の心を引き付けていることは間違いない――しかし、今は、年に一度の、楽しい、祭りなのだ……このまま、この曲が、暗いイメージに彩られたまま終わってしまって、はたして、勝ち、を取ることができるだろうか?
そのことに、シャルルは気付いているのだろうか?

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