『天使の翼』第5章(74)
その日、わたし達は、適度な小休止を繰り返しながら、距離を稼ぎ、一夜を明かし、その次の日もまた、同じように距離を稼いで、そうして、洞窟隊商路三日目の夜が明けた。
その頃には、わたしとダイアンが朝食の支度をしている間に、近くで出立の準備をしている隊商に情報を仕入れに行くのが、シャルルの日課のようになっていた。シャルルのいない間、何かと会話を交わすわたしとダイアンの間は、お互い外交的な性格だからだろうか、急速に縮まって、まるで甘えん坊の妹が一人できたような感じになっている。
「今日の昼過ぎ――」
いわくありげな顔付きで戻ってきたシャルルは、開口一番――
「――午後の半ばには、洞窟を出られる」
わたしとダイアンは、歓声を上げた。
「ただし――」
「『ただし』?」
「ただし、その前に、いよいよ例の竪穴が待ち構えている」
わたしとダイアンの心は、たちまち暗転した。これまでに、すでに3ヶ所の竪穴――昇りもあれば、降りもあった――をクリアしていたが、それらは、高度差があまりなかったり、十分な昇降施設があったりで、思いの外たいしたことがなかったのだ。だけれど、次に控えているのは――
「深さは、400標準メートル……思っていたより深い。向きは、降りだ」
わたしの心は、「絶対に無理よ!」と叫んでいた。何の知識もない初心者に、いきなりスカイ・ダイビングをやれと言う様なものだ……
「しかも――」
シャルルは、容赦なく続けた。
「昇降施設はない――自前で何とかするしかないんだ……」
洞窟隊商路のような、峻険な山岳地帯に覆われた星の主要な幹線道路が、何故、そのような旧態依然とした状態にあるのか、わたしは、理解に苦しんだ。その点、シャルルも――
「一種の関所として機能しているのか、それとも、防衛上の城壁代わりとして?……どうも、逆効果のようにしか思えないんだが……。いずれにしても、突破するしかない」

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