『天使の翼』第5章(73)

 「それにしても、参ったわ……」
 幸か不幸か、ダイアンの心は、別のこと――厳しい現実の方に向かった。わたし達は、一日にも満たない短い時間の間に、宇宙空間で急襲され、不時着して、運よくレプゴウ男爵の居城に辿り着ける洞窟隊商路に転がり込めたものの、今度は、その洞窟が、自然の法則に従ってわたし達を翻弄し、なおかつ、悪党どもは、洞窟の中まで執拗にわたし達――いえ、わたしを追ってくる……
 ……はたして、ダイアンにどう説明したものだろう……今は動揺しているかも知れないが、気持ちが落ち着いてくれば、宇宙賊――彼女にとっての――の執拗さは、当然疑問に思えてくるはずだ――
 「奴ら、襲撃に失敗して自分達の船まで失ったことに、何としても落とし前をつける気らしい」
 はたして、シャルルが、いつもの勘の鋭さを発揮して、ダイアンの考えを誘導しようと働きかけた。
 「世の中、嫌な奴ほどしつこいのよ」
 このダイアンの発言は、女として全く同感だ。

 「一難去って、また一難か……」
 シャルルが、巧みに話題をスライドさせる。
 「でも、これで、洞窟隊商路を無事通過して、レプゴウ男爵の城下町に辿り着くことが、当面最優先の課題だとはっきりした。つまり、スピードがすべてだ。――そして、そのための気力と体力が」
 わたしとダイアンは、まるで幼年学校の生徒のように、二人してこくりと頷いた。
 「君たち、もう一踏ん張りできるね?」
 わたしとダイアンは、顔を見合わせ頷き合ってから、二人同時に立ち上がることで決意の程を表明した。