『天使の翼』第5章(69)

  どうしよう……
  どうしよう――
  どうしよう?
  ……心の中は空っぽのまま、誰も答えを囁いてくれない……
 

 唐突に、頭の中を、詩のフレーズとメロディーが流れた……
 (宇宙港のアベック!)
 ポート・シルキーズ宇宙港のターミナル・ビルの屋上で歌った時……わたしとシャルルのまん前で……そうだ、その時100ユナイト紙幣を投げてよこしたアベック!
 (あの二人、去り際にウインクを……)
 「あの時にはもうつけられていたのか……」
 シャルルも気付いた。思わぬ形で、わたし達の推理の一端が裏付けられた……
 ダイアンに説明している時間はない。

 「あの二人を良く見ておけ!やつらが宇宙賊だ」
 「何ですって!」
 「逃げるぞ。もうこうなったら行くしかない!」
 わたし達は、めいめい荷物を引っ掴んで、壁龕を飛び降り、人波に紛れた――ブランケットは置いていくしかなかった……
 …… 
 ……わたしも好きでよく見るムービーなら、ここからが映像描写の山場であり、時間もかけるところだろうが、言葉ではそうもいかない。まして、わたしは、命を危険にさらして――今までの人生にはほとんどなかった構成要素だ――慌てふためいている当人である。――その状況は、『こうなったら行くしかない』というシャルルの言葉に象徴されていた――シャルルがどれだけ洞察力に優れていたとしても、所詮は人間、神ではない。周りの状況が待ったなしの時には、推理も計画もなく、ただただ行動あるのみだ……