『天使の翼』第5章(68)
決断の時だった。どうすればいい?――
「ここで何ヶ月も足止めを喰う訳にはいかない。かといって、このまま突っ走るのはあまりに無謀だ。命を危険にさらすことになる――」
「とりあえず、サイフォンに行き当たるまで行くことにしては――」
ダイアンが、言った。
「違うんだよ、ダイアン。もし、僕たちの歩いている洞窟が、いつの間にか低い部分に差し掛かって、前後から増水してきたら……そうと知らずにサイフォンを歩いている時に、そこが水没してしまう危険が――」
その時だった。
わたしの、いや、わたし達の体、顔をかすめるようにして、ピュッ、ピュッと、何かが空を切った。
背後の岩壁を振り返ったわたし達は、愕然とした。
十本を超える太い針が、岩に突き立って振動している!――直径3標準ミリ、岩から突き出ている部分だけで長さは7標準センチはあった……
「ニードル・ガン!」
シャルルの口から、恐れていた言葉が出た。
わたし達は、一斉にニードルの飛んできたと思しい方向を顧みた――
――一瞬の間を置いて、わたしの視線は一組のアベックの上に固定された。
――この場に不似合いな、奇抜なファッション――つまり、都会的・先端的ということだ――の若い男女……今わたし達のいる場所は、通路というよりはちょっとしたホールのように横幅も高さもあって、薄暗い上に、人込みで混雑していた。それでも、30標準メートルほどの距離にいる二人は、この場にそぐわず、わたしの視線は二人から離れなかった……
「あのアベック、二人とも、手にしたニードル・ガンを上着の下に隠している!」
シャルルが気付いた。ニードル・ガンはほとんど発砲音がしないので、二人の周囲の人間は、水難を逃れるのに必死で誰も気付いていないようだ……
……それにしても、どこかで見たような二人……

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