『天使の翼』第5章(62)

 シャルルが、わたしの両肩をその優しい指でしっかりとつかんだ。
 「今度の事件を追えば、君のご両親に辿り着けるかも知れない」
 わたしは、喉がからからだ。
 「大丈夫かい?」
 「ええ……」
 「つらいだろうけど、真実を知るためには、あと二つ確認したいことがある」
 わたしは、頷いた。
 「君のご両親は、ミロルダに来たことはないだろうね?あるいは、ミロルダに行くような話は?」
 「……思い出せない……でも、聞いていたら、すぐに気付いたはず。思い出せないのは、聞いてないからでは?」
 「レプゴウ男爵は、歌好きで、度々吟遊詩人を招いていると思われる……吟遊詩人を誘拐しようとする謎の有力者とレプゴウ男爵は、いわば競合関係にある――プラスとマイナスの競合関係だ」

 「……」
 「このことから、言えることがいくつかある――」
 わたしは、次々と推理の輪を広げていくシャルルの顔を見詰めるばかりだ。
 「第一に、今回は、レプゴウ男爵が招待に成功したけれども、逆の場合だってありうる訳だ。レプゴウ男爵にすれば、時々自分の招待がうまくいかないことに対して、当然何故なのか知りたいところだ。――もしかしたら、謎の有力者のことを知っているかも知れない。少なくとも、白い封書で吟遊詩人を招待する人物がいる、ということは……」
 「なんてこと……」
 「レプゴウ男爵が、赤黒い岩の招待状という、きわめて風変わりな招待状を用いるようになったのも、もしかしたら、謎の有力者との招待合戦がエスカレートして、自然と人目を引く形に進化していったのかも知れない……吟遊詩人の歌は、一人ひとりとても個性的だから、どうしてもその歌声を聴きたくなったとしても不思議はない。……もちろん、いい意味でだけど」
 ……物事は、どこでどう絡み合っているか分からない。交錯する因果の糸だ。