科学の進歩と人間の欲望

『ハッシュタグ狂詩曲(#Rhapsody)』第16話
 テーマ:時間を止められたらなにをする?


 『時間を止められたら何をするか?』――
 本当に時間を止められたら……


 本当に時間を止められるとすると、一番懸念されるのは、その頻度だろう。
 何かアインシュタインの相対性理論に関わるような実験、あるいは量子力学的な実験をしていた最中に、ただの一度だけ、短い時間その実験者の周囲で時空が停止した、というのなら、この人間世界も、それほど決定的なダメージを受けないで済むかも知れない。一人の人間にできることは限られているから、その人間の周辺の『歴史』が、ちょっとその方向性を変えるだけで済むかも知れない……
 これは、しかし、かなり楽観的な見方だ。その実験者が、たまたま一国の首相の近くにいて、時空が止まっている間に彼を暗殺でもしてしまったら……


 もし、多数の人間が、無作為かつ頻繁に時間を止められるような事態になると、確実に人間社会が崩壊することは、想像に難くない。


 『時間を止める』という現象は、一見絵空事のように思えるが、相対的には、タイムマシンと同じ原理だと思われる。
 一般的なタイムマシンの場合は、自分が止まっている間に、周囲の全てのものが、過去に、未来に動く。タイムマシンの性能が良ければものすごい速さで……
 『時間を止める』現象は、その逆で、周囲の全てのものが止まっている間に、自分だけ自由に動ける。『時間を止めていた』分だけ、自分だけが年を取る。
 どっちが止まっていて、どっちが動いているかの違いだけで、相対的に見ると、どちらもタイムマシンなのだ。


 『時間を止める』現象が、タイムマシンと同じ原理だとすると、タイムマシンが科学的には理論上実行可能だとされている(参照:ポール・デイヴィス著『タイムマシンをつくろう!【原題:How to Build a Time Machine】』草思社) 以上、実行可能……ありうることだと言わざるを得ない!


 だとすると、『時間を止められたら何をするか?』という設問は、より現実味を帯びてくる。
 先ほど、『周囲の全てのものが止まっている間に、自分だけ自由に動く』と表現したけど、これは、相対的には、『周囲と比べて自分の時間だけ進むのを限りなく早くする』というのと等価だから、自分の体の占める時空だけにタイムマシンをかければいい訳で、一般的なタイムマシンと比べて、必要なエネルギーは格段に少なくて済むと考えられる。
 『時間を止める』現象は、一般的なタイムマシンより早く実現するだろう。


 あなたは、『時間を止められた』時、いけない事をしないでいられますか?


 これは、もう、『時間を止められたら』何をするか、という問題ではない。
 何でもできそうなときに、自分の欲望をコントロールできるか?という問題なのだ……


『天使の翼』作者:有川慶子




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