『天使の翼』第5章(60)

 わたしは、かすれた声を絞り出すのがやっとだった。
 シャルルが、気遣わしげにわたしの肩に手を置いた。
 わたしは、ぽろぽろと溢れ出す涙をどうすることもできず、再びしゃべることができるようになるまで間を置かなくてはならなかった……
 「わたしの両親、失踪したんです。……わたしが、六つになるかならない頃に……今もって行方知れず。夢を見るようになったのは、両親がいなくなってしまった後だわ!」
 いつの間にか、二人ともブランケットを跳ね除けて上半身を起こしていた。
 「おばあ様は、君のご両親の失踪について、何か決定的な手掛かりを摑んでいたのかも知れない。しかし、それは、幼い君には消化しきれない情報だった。そこで、おばあ様は、君の潜在意識に、いつか時が来たら君に知って欲しかった手掛かりを残した……今度の旅で、君はそれを知り、役目を終えた物語は、もう二度と君の夢枕に立たない――」
 シャルルが、わたしに代わって、わたしの思いを整理してくれた。
 わたしは、愕然としながら――
 「わたしの両親の失踪にも白い封書が係わっていて、そのことを、祖母は、わたしに伝えていたと……」
 シャルルは、頷いた。

 「潜在意識という形でね。……ご両親に係わる白い封書と今回の白い封書、偶然同じ白だったに過ぎず、犯人は別人だ、という可能性がない訳ではない。でも、今後のことを考えると、同じ犯人という前提で進めていった方がいい。だとすれば、犯人は、相当昔から今まで捕まることなく犯行を繰り返している、ということになる……被害者の数は驚く程のものになるかも……一人ではなく、手下を使った犯行だという推理とも合う……」
 わたしは、自分の視界が――心の視野が広がったのを意識した。まるで漆黒の夜空を見上げるように、暗闇が広がっていることが分かる……今までは、暗闇のあることさえ分からなかった。塗り潰されていたのだ。
 わたしは、今、艶やかな闇の遥かに遠い奥行きを見据えることができる。
 ……それは、人生の闇の半身、人間の暗黒のサイドだ――