『天使の翼』第5章(56)

 シャルルは、話を元へ戻した。
 「――もちろん、レプゴウ男爵を動かして、男爵家の警察組織に黒いヨットの遭難状況を調べさせる必要がある。墜落した機体から何かが分かる可能性は、きわめて高い……もしフライト・レコーダーが回収できれば、ヨットの母港など、重要な情報がすぐに判明するだろう。……そして、乗員の生死だ……」
 シャルルの言葉を聴くまで、乗員は墜落の際に死んだと半ば思い込んでいたわたしは、身震いして、思わず上半身を起こしてしまった。きょろきょろ周囲を見回すわたしの腕をシャルルが取った。
 「デイテ、落ち着いて。僕が悪かった……」
 わたしは、ぐっと唾を飲み込み、再びブランケットに包まった。
 シャルルは、じっとわたしの目を見て――
 「用心はする。でも、神経質になってはいけない」
 わたしは、歯を食いしばって頷いた。敵に追われている状況、この先のことを考えれば、ここで挫ける訳にいかない。
 「――可能性は低いけれど、ホテルの支配人のオフィスに白い封書が残されていないか確認する必要がある。……支配人が几帳面にコピーを取っている可能性?……もしオフィスに保安カメラが取り付けてあれば、君が招待状を選んでいるシーンが残されているかも知れない……少なくとも、支配人に聞けば、――どんな口実で聞くかは問題だけど――招待状の差出人の名義位は覚えているかも……」