『天使の翼』第5章(50)
「――そして、もう一つのポイントは、僕たちを襲った宇宙船が自載ドライブ・ワープ・エンジンを装備していたということ。きわめて高価で、しかも、面倒な法規制の網を被せられている。……犯人は、ケチな犯罪者なんかではなく、歴とした表の顔を持った有力者の可能性がある」
わたしは、話の筋が見えてきた。
「――犯人は、ホテルで歌う君に目を付け、君を体ごと……すまない――自らの所有物にしようと目論んだ有力者だ。……もし、僕がその有力者なら、まず、人攫いなんて面倒なことは考えずに、何食わぬ顔で、君を招待するだろう」
「……」
「犯人は、招待状の中だ」
わたしは、シャルルの推理を聞くうち、再び、心の中に怒りの泡がぼこぼこと湧き上がってくるのを感じた。
「マウリキス伯爵は除外していいだろう」
誰も信じられない気分になっていたわたしは、何故除外できるのか、シャルルの言葉に耳を傾けた。
「犯人は、すでに何回も犯行を重ねている――自載ドライブ・ワープ・エンジン搭載の船を使う位だからね。実際の犯行がどういう形を取るのか、生け捕りにしてそのまま生かしておくのか、生死は定かではない――」
――わたしの心の中で、何かがカチリと音を立てた。
「――何人、何十人もの吟遊詩人らを生け捕りにしている病的な連続犯だ。……吟遊詩人が、自由人でマイナーな歌い手であることが、犯人の犯跡をくらますのを助けている。犯人は、きわめて狡猾で用心深く、自分が捕まるなどとは思ってもいないだろう。こういう犯罪者は、決して自分のテリトリーでは犯行に及ばない。したがって、マウリキス伯爵が犯人で、自分の領星で歌った吟遊詩人を、自分の城に幽閉するなんて、考えにくいんだ」

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