『天使の翼』第5章(49)
「……まだ宇宙空間にいたとき、確か大気圏に突入する直前のことだったと思うけど、僕たちを襲った宇宙船についていくつか推理したのを覚えているかい」
「ええ、人攫いだと――」
シャルルは、頷いた。
「僕たちを襲う目的、それが僕たちの秘密の使命を知らない、それとは関係のない目的だとすると、ワープ・ステーションの目の前でいきなり犯行に及ぶという、銀河帝国で最も手強い警察組織である査察庁のブラック・リストに載っても良いと思う程のハイリスクを敢えて犯したのだから、僕たちの乗っていたスペース・クルーザーや、その積載物が目的では、とてものことに割が合わない。……あの船が、何かとんでもないものを密輸していたなら別だけど、とりあえず、それはおいておく。――彼らの目的は、金銭的な尺度では測りきれない、偏執的なもので、だとすると、目的は、人間そのものだ……誰が目的なのか?……まず言えることは、乗員ではなくて、乗客だろうということ。乗員が目的なら、なにもわざわざ900光年もの距離をかけてミロルダまで来る必要はない。……僕たち二人のどちらが目的なのか?」
わたしは、いつの間にか自分の体が小刻みに震えだしていることに気付いた。それは、寒さのせいでも、ひもじさのせいでもない……
「犯人が、僕たちに目を付けたのがポート・シルキーズでのことだとすると、僕は、あそこではほとんど何もしていない……一日もいなかった。君は……」
シャルルは、気遣わしげに、わたしの頬に手を触れた。
「君は、あそこで、ポート・シルキーズ有数のホテルで、大勢の観客を前に歌を歌った……有象無象、不特定多数の人々の注目を浴びた――」
「わたし、前にも、公演の後で性的な嫌がらせを受けたことがあるの、もうだいぶ前のことだけど……」
「ごめんね、脅かす訳じゃないんだよ……。でも、君は、とても人をひきつける個性があって、カリスマ性があって、全身からオーラのようなものを発している――」
わたしは、シャルルの肩を叩いた。褒め過ぎだと思ったが、少し気持ちが楽になった。

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