『天使の翼』第5章(51)

 ――『わしは、トーマスの闇を切り裂き、岩をも穿つ洞察力に全幅の信頼を置いておる』
 わたしの脳裡に、コプリの離宮で聞いた皇帝の言葉がよぎった。あれから幾日の時が経つのか、遠い昔のことのように思える。……今わたし達のいる洞窟隊商路の情景が、皇帝の言葉を記憶の倉庫から甦らせたのだろうか。……トーマス、いやシャルルが、一歩一歩着実に真実に近付き、この洞窟を無事通り抜けられた時、そこには、わたしの思いもよらなかった事実が待ち構えているのだろうか?……それは、あまり歓迎すべきではない事実なのかも……
 「やはり、レプゴウ男爵も除外しよう」
 シャルルが続けた。
 「マリピエーロ宮内長官や洞窟隊商路の関守の言葉から、レプゴウ男爵が歌好きな貴族で、たびたび歌い手を自分の居城に招いていることが分かる。レプゴウ男爵は、歌が好きなんであって、音楽好きは、パラノイアとは関係ないからね。レプゴウ男爵が多重人格でもない限り、自分で招いた歌い手を次々と幽閉するとは思えない。……可能性はあるけれど、それは、論理上の可能性にとどまる。実際的にはないと思う」
 (それじゃあ……)
 「次に、ホテルの支配人がはねておいたという二通の招待状だ――」
 ……やはり、そうなのだろうか?評判の良くない領星貴族と企業家……どちらかが、招待の断られたのを知り、わたし達を付けて襲った――

 「――どちらも、可能性は低い」
 シャルルは、あっさりと切り捨てた。