『天使の翼』第5章(47)
その時、ダイアンが、寝返りを打って、わたし達の方を向いた。
わたしとシャルルは、息を詰めて、彼女の顔を見詰めた。……幸いなことに、彼女のまぶたは閉じられたまま、目を覚ました気配はない……
わたしとシャルルは、二人して大きなため息を吐いた。
シャルルが、わたしの目を見詰めて、声を潜めて言った。
「君は責任感の強い人だから改めて言うまでもない、と思うけど、僕たち二人の間の気持ちが、僕たちの使命に影響を及ぼしてはいけない。……追い詰められた究極の状況で二者択一を迫られた時、二人の関係と使命のどちらに優先順位をつけるのか――」
「『使命』だと言いたいのね」
驚いたことに、シャルルは、首を横に振った。
「いいや。仮に君に対する特別な感情を抜きにしたとしても、君というすばらしい女性を知ってしまった以上、僕は、使命のために君を犠牲にするようなことはしない――」
「……」
「そして、君のために使命を危険にさらすこともしない――」
「……」
「僕は、必ず、君と使命の二つを同時に守ってみせる。どんなに難しくても、必ず第三の道を見付けて、問題を解決する」
わたしは、この宣言のインパクトにノック・アウトされて、言葉もなく彼の顔を見詰めていた。彼の頼もしいところは、誰も選ばないような……というより、誰も気付かないような選択肢を頭の中からひねり出し、しかも実際にやってのける、と信じられるところだ。
今現に直面している危機にあっても、すでにその片鱗が窺える。――彼は、使命だの愛だのといって、ぐずぐず悩んだりしない、と宣言した。両方とも比較することのできない大切なものだから、両方とも同時に達成する、と言ったのだ。つまり、どんなに難しくても、必ず道を見付けだすと……
わたしは、シャルルの底知れない力――悲劇を回避する類まれなる能力を見たように思った。

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