『天使の翼』第5章(46)
ようやく、シャルルがわたしの方を向き直った時、そこにあったのは、いつもの子供っぽい笑みだった。彼は、わたしの顔を、そのほっそりとした指先で、優しくそっとなぞってから、わたしの唇に口付けしてきた……ポート・シルキーズの海岸で、感情の昂りから思わずしてしまったキスを思い出した……優しく触れ合わせるような、甘えん坊のようなキス……
わたしは、どう解釈してよいか分からずに、でも少しぼーとして、彼の顔を見詰めた――心の底からの安堵感に浸りながら……
「僕だって君のことが好きだ……まだ知り合って間がないけれど、そんなことは関係ない。それにしても、君は、僕の想像以上に積極的なひとなんだね。君の気持ちは、僕の数段先を行っている」
わたしは、一瞬自分が尻軽のように思われたのかと思って、訂正しようと慌てた――
シャルルは、そういう意味じゃないよ、と笑って見せ――
「僕は、どちらかというと、自分の身の回りにいる女性を、ゆっくりと時間をかけて好きになっていくタイプだ……」
わたしは、絶望すべきなのだろうか?
「でも、心配しないで、デイテ。僕は、積極的で、好き嫌いのはっきりした、気性の激しい女性が大好きなんだ」
わたしとはちょっと違うような気もしたが、一勝一敗の五分、という言葉が脳裡に浮かんだ……ちょっと先走ってしまったが、まだ失地回復の余地はある。普段のわたしなら、お前はこれこれこういう女だと決め付けられたら、まして知り合って日の浅い人からそんなことを言われたら、反感を抱いたに違いない……でも、シャルルの場合は……
わたしの心は、急に軽くなった。
「わたしみたいな、何でもはっきり物を言う、扱いにくい女は嫌いじゃないの?」
「前にも言ったと思うけど、君は、本当はとても優しい女性だと思う。君みたいな、積極的で、人に媚を売らない女性が、もし僕にだけ優しい側面を見せてくれたとしたら、男として、こんなに嬉しいことはない……ハハハ、またまた言いにくいことを言わせたね!」
わたしは、思わず指先でシャルルの唇をなぞり、そして、口付けした。
「……あなたにだけ、優しくしてあげる……」
言いながら、今度いつこんな状況が訪れるだろうかと思った。このチャンスを――

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