『天使の翼』第5章(33)
――わたし達は、岩場を迂回して回り込んでいたので、その明かり――松明の明かりは、突然眼前に現れた。
そこは、ちょっとした砂地の広場になっており、松明は、崖に開いた洞窟の入り口を左右から照らし出していた。
わたし達は、いつの間にか、山脈の山裾に辿り着いていたのだ。
シャルルの静止の合図で、わたし達は、物陰からじっと洞窟の入り口を窺った。
程なく一人の人影が現れて、わたし達をどきりとさせた。ミロルダで初めて見る現地人……
「街道の旅人達よ!洞窟隊商路の閉鎖の時を告ぐ。――閉鎖の時なるぞ!何人も居らねば、今ここに洞窟の入り口を塞がん!」
その人影は、老人特有の野太い声で、大粒の雨の降りしきる外界に呼びかけた。老人は、蓑の様な物を被って異様な風体であったが、間違いなく銀河標準語を喋っている――もちろん訛りはあるし、民族歌謡のようなほれぼれする節回しであったが……
シャルルが、わたし達の方を顧みた。
「ここで閉め出されたら運の尽きだ……」
そして、あっと驚く間もなく、シャルルの手が、ダイアンの結い上げた髪を解き、コートの裾をびりびりと引き裂いた。

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