『天使の翼』第5章(34)
「ごめん、ダイアン。でも、これで君も、……吟遊詩人に見える」
その時、わたしは、ダイアン以上にどきどきしていたと思う。シャルルの行為は、決して荒っぽくはなかったが、突然のことで、わたしは、初めてシャルルを、女性に対する性的な意味での男性として意識した……
「余計なことは言っちゃ駄目だよ。レプゴウの居城がどこだか皆目分からないけれど、僕たちは、あくまで吟遊詩人として旅を続けるからね。……吟遊詩人ならどこにいてもおかしくはないし、簡単に現地に溶け込める。結局それが一番安全だ」
秘密の使命を担っているわたしにとっては、すこぶる納得のいく説明だけど、ダイアンが納得するかどうか?
「……何者に襲われたのか分からないし、間違いなくレプゴウ男爵家の官憲に保護されると分かるまでは、身を偽っていた方がいい」
はたして、シャルルが、補足を加えた。
ダイアンは、多分まだショック状態で、疲労も相当なものだからだろう、特に疑うでもなくこくりと頷いた。
「……ダイアン、君、歌える?」
「えっ、歌?……歌は好きだけど――」
「良かった。歌が歌えなきゃ、踊りでも踊ってもらうしかない、と思っていたんだ――」
ダイアンは、思わず――だろう、シャルルの肩を叩いていた。
シャルルが、微笑んだ。
0コメント