『天使の翼』第5章(31)

 物思いに沈んで歩みを進めている時だった。――遠くで獣の吼えるような声がした。気にせいじゃ、ない……
 どう考えても、肉食獣のそれを思わせる太い声だった……
 わたし達三人は、思わず高所への斜面で立ち止まっていた。
 「参ったな」
 そう言って、シャルルは、ニードル・ガンの安全装置を外した。
 「急ごう」
 いつの間にか、これが嵐の前触れでなければ良いのだが、風がぴたりと止んでいる。……それで、遠吠えが聞こえたのだ……
 わたし達は、目標となる人工物を見定め、嵐と野獣から身を守る夜営地を見付けなくてはならない。すぐにもだ。
 月の気配がない以上、真の闇夜が訪れる前にすべてを決しなくては――
 「デイテ、ダイアン、走れるか?」

 「もちろんよ」
 「ええ!」
 わたしとダイアンは、一も二もなく賛成した。何故と言って、雨でずぶ濡れになるのも、野獣も、どちらも美女の大敵だから!
 わたし達は、沈み行くミロルダの太陽を背に受けて――ということは、標準方位〈東〉に向かって斜面を駆け登った。
 ――息を切らし、期待を込めて周囲を見回す……あった!
 その明かりは、北の方角、地平線を扼して連なる山脈の麓に見えた。小さな点のような、もわっと霞んだ明かり……山裾であれば、風雨をしのぐ場所もありそうだ……