『天使の翼』第5章(6)
赤黒い箱は、きわめて旧式の三次元映像メッセンジャーだったのだ。
わたしとシャルルは、思わず顔を見合わせていた。
やがて、パチパチと接触の悪いような雑音の後、映像の人物の声が聞こえてきた。訛りが強いが意味はとれる。
「わたくしは、レプゴウ男爵家の宮内長官マリピエーロであります」
かくいう人物は、長い白髪の印象的な痩身の老人で、白いケープをまとっている。
「昨夜――もちろん、そちらの現地時間でですが――、私共のポート・シルキーズ大使より不定期連絡が入り、デイテ殿の素晴らしい歌のことが記されておりました。実は、私共の殿は、深く歌を、音楽を愛しておられます。――突然の申し出に戸惑われるかも知れませんが、率直に申し上げる――ご都合がつくなら、ぜひレプゴウ男爵領ミロルダ星をご訪問いただきたい、なるべく早くに。報酬の点も含めて、あなたを、いやあなたには弟さまがおられるとか、お二人を歓待いたします。……レプゴウ男爵は、小なりといえど、歴とした、譜代の直接叙任貴族(ダイレクト・オマージュ)であります。煩瑣な手続きはありません。どうか今すぐ宇宙港へ。インペリアル・キャピタル航宙会社の窓口であなたのお名前をおっしゃっていただけば、すべては通じます」
――宮内長官が深々と頭を下げたところで、メッセンジャーは、雑音と共に作動を停止した。
わたしとシャルルは、顔を見合わせ、そして沈黙した。
メッセージ自体は、きわめて簡潔明瞭で、ミロルダ星まで一気に900光年の道筋がつけられた感がある。若干方位角が違うけど、サンス大公国にも近付くのだ。……もちろん、いくつか疑問な点もある――

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