『天使の翼』第8章(50)
「彼女自身が謎に包まれているから、そのデラ公女が今夜何故ここにいるかということは、推測して正確に評価しようにも情報が少な過ぎる。……サンスに謀叛の兆しがあるということは、国家の最高機密で、僕たちを含めて、文字通り一握りの者しか知らされていない。スカルラッティにも報告はいっていない。一般には、サンスと帝国との国境が少しばかりタイトになったと察せられる程度で、そんな事態は今までにも何回となく繰り返されてきたことだ。僕たちは彼女を見て何事かと思うけれど、一般には、国交もあり交流も盛んな国の貴賓の訪問としか写らない……まさに、それを狙った目くらまし――平和の演出なのか?だとしたら、スカルラッティの個人的に肩入れしている村の祭典などまさ・にうって・つ・け…………」
シャルルは、最後まで言うことが出来なかった――彼の目が見開かれた。
ギョッとして彼の視線の方を振り返ったわたしは、思わず声を上げそうになった。
――小さな聖堂とはいえ、重くて背の高いことには変わらない、おそらく青銅で出来ていると思われる扉が、音もなく、わたし達のいる外側に向けて開こうとしている……少しずつ、少しずつ、ほとんど目に見えない位に僅かずつ……
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