『天使の翼』第8章(51)
わたしは、無意識にシャルルの腕にしがみついていた。
聖堂の内陣は真っ暗で、漆黒の闇に閉ざされている。そして……
そして、その闇の奥深くから、ゆらゆらと揺れる蝋燭の灯りが、徐々に大きくなりながら、まるでそれだけが宙に浮いているかのように、扉口へと近付いてきた。
蝋燭の灯りは、敷居の手前で、ふっと炎を揺らめかせて止まった。
蝋燭の灯りの届くごく小さな空間を食い入るように見詰めていたわたし達は、ようやく、燭台と、それを持つ黒手袋を見い出した。
わたしは、シャルルの腕を爪が立つほどにきつく握り締めていた。
余程時間が経ったかに思えだした頃、やっと、その手の持ち主が、軽く咳払いして、一歩前に進み出た。松明の揺れる明かりの中に入ってきた人物は――
(!)
何と、昨日わたし達を歌合戦にエントリーさせてくれ、今朝また、会場でわたし達のことを出迎えてくれた、あの初老の修道僧ではないか!
わたしは、膝の力が抜ける程にホッとした。それは、たぶん、シャルルも同じだったと思う。
「お二人であらせられましたか。今日は、またよく会いますな、ハハハハ」
そう言って、彼は、いったん扉の陰に引っ込み、聖堂の明かりを点けた。
「入られよ。大司教様は、じきに来られる」
わたし達は、親切な修道僧の後について、聖堂の内へと歩みを進めた。
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