『天使の翼』第8章(45)

 「大司教様――」
 サンスの大使が、他の客に気を取られて、わたし達とスカルラッティの周辺が陸の孤島のようになった瞬間を捉えて、シャルルが言った――
 「――わたくし達姉弟は、宗教家としての大司教様をお慕いしております。大司教様の御本もいくつか読みました……個人的にご相談したいことが……」
 シャルルは、恥ずかしそうに俯いて見せた。
 わたしには、スカルラッティの表情が動いたように見えた。
 「それは、告解、ということかね?」
 「はい……」
 「うむ……会場が落ち着いて、私が着座するのは、宴の途中からだ。少し時間が取れなくもない――」
 ここで、スカルラッティは、わたし達の顔を窺うようにした。
 「――私は、ここでもう少し客の相手をしなくてはならないので、先に聖堂の方に行ってなさい」
 そう言って、スカルラッティは、侍僧の一人を呼んだ。
 「この者達を――」
 「サーンース、大ー公ー国!」
 わざと音節を引き伸ばした儀典僧の大音声に、スカルラッティ、わたしとシャルル、そして周囲の者全員が、控えの間の入口の方を振り返った。

 直立不動の儀典僧が続けた――
 「第ー一ー公ー女ー!」
 (サンスの第一公女が……)
 わたしは、シャルルと顔を見合わせた。