『天使の翼』第8章(46)

 「デラ殿下ー!大公国連合艦隊ー!司令長官閣下の御成りー!」
 会場の、それまでの期待に満ちたざわめきが、陽炎のように音を潜め、その水を打ったような静寂の中を、軍用ブーツの踵が床を打つカツ、カツという音が、非常な足早と分かる調子で近付いてきた。
 そして、我々の眼前に、一人の女性が勢いよく入ってきて、立ち止まり、辺りを睥睨した――
 年の頃は、わたしと同じ位――
 背の高さも、わたしと同じ位――
 結って背中にたらした髪の長さも、ミドルヘアだった頃のわたしと同じ位――
 細身だが、華奢な感じはない――
 冷酷、という訳ではないが、冷たくあたたかみの感じられない、それでいて、一度見たら二度と忘れられない美しい顔……
 全く人を寄せ付けず、人に命令することが唯一の行動パターンとでも言おうか……
 わたしの脳裡に「彼女の軍服、悲壮な程似合っている」という思いが浮かぶのと、彼女が我々――いや、もちろんスカルラッティに気付いて、ほんの微か、侮蔑――とでも言うしかない笑みを浮かべたのが、ほとんど同時だった。
 彼女は、つかつかと大股に歩み寄ってきた。
 「スカルラッティ宰相!」

 よく通るアルトで、ほんのお義理程度の辞儀をする――彼女は、スカルラッティのことを何とも思っていなかった……