『天使の翼』第5章(78)
どきりとするわたしを他所に、シャルルは――
「前に軍の基地に慰問に行ったとき、レンジャーの一人がくれたのさ」
「へえー!」
シャルルは、わたしにだけ分かるようにウインクして見せた。
「よし」
しばらくして、シャルルが、ウインチを逆回転させた。
「穴の底から5標準メートルの所まで下ろしてみた……」
……そのまま黙ってしまう。
わたしには、その沈黙の意味が痛いほど分かった――降りる順番を決めなくてはならないのだ……
無限とも思える時の刻み――チクタク、チクタク……わたしは、プレッシャーに耐えられなくなり――もちろん、ウインチを購入した責任からだ――口走っていた。
「わたしが――」
しかし、すぐに、シャルルが手を上げて制した。
「気持ちは分かるけど、僕が一番に行く。穴の底の状況を確かめないといけないからだ」
「……」
「暗視スコープで僕のことを良く見ててくれ。穴の底に着いたら、状況を把握して、戻るか、止めるか……継続するか、ジェスチュアで知らせる」
シャルルは、実際にその仕草をして見せた。
「そして、二番目には――」
わたしは、わたしと同様ダイアンも、はっと緊張するのを感じた。

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