『天使の翼』第5章(79)

 「デイテ――お姉さんが来て欲しい」
 シャルルは、ぎこちなく言い直した。そして、わたしに頷いて見せた。
 ……シャルルとわたしは、重大な使命を担っている。穴の底、洞窟隊商路の出口に近付くということは、新たな局面を迎えることを意味する。そのような大切な場面で、二人が離れ離れになることを極力避けたいという判断が、シャルルにはあったのだ。……降りる順番一つを間違えただけで、後で取り返しのつかない事態を惹起するとも限らないのだ……
 「怖がっているお姉さんを一番最後にはしたくないからね」
 シャルルは、ダイアンに対してはそう言った――受け取り様によっては、反発を喰らいかねない一言だったけれど、そこは、ダイアンの性格に対するシャルルの読みのほうが一枚上手だった。
 「まかせてちょうだい」
 と、ダイアンは、あっさりしんがりを引き受けた。そして――
 「ところで、このウインチ誰が持っていくの?」
 と、おどけて見せた。もちろん、置いていくのが、暗黙の了解なのだが……
 「ありがとう、ダイアン――」

 シャルルは、彼女としっかり視線を合わせて礼を言うと、一呼吸置いて――
 「じゃあ、さっさと済ませるとするか」
 そう言って、わたし達の背後、来た道に今一度鋭い視線を投げた。わたしとダイアンもつられて振り返る。彼が何を心配しているのかはすぐに分かった――極悪非道のアベック二人組みだ……水没した部分が復旧したという知らせはまだないが、何らかの方法であそこを越え、再びわたし達の追跡に入っているかも知れない……災害に備えてアクアラングの機材があっても、なんら不思議ではない――
 そう考えると、いてもたってもいられなくなってきた。