『天使の翼』第5章(77)

 「ごめん、ごめん。今のは、ウインチの脚3本を岩盤に打ち込んだんだよ。50標準センチはある脚が、斜めに外側に向かって3本打ち込まれたから、もうどんなに引っ張っても、このウインチはびくともしない」
 なるほどそこまでは考えてなかった。ウインチそのものの信頼性もさりながら、ウインチがしっかりと固定されていなくては意味がない。
 シャルルは、手際よくワイヤーの先のハーネスを付属の網に付け替え、その網に、正確には分からないが、人の体重の三分の一程もありそうな岩を転がし入れた。彼は、このマシンの信頼性に精通していたのだが、万が一の事故を恐れたのだ。と言っても、こんな大きな岩が落下してしまったら、大事故になりかねないことに変わりはなかったのだが……。ワイヤーを巻き上げるボタンを操作すると、岩はいともたやすくウインチのアームにぶら下がった。
 コントロール・パネルでアームを操作し、岩を悪魔の口腔の上に差し出した。ワイヤーを緩めるボタンを押す――岩は、するするとスムーズに降下して、すぐに肉眼では見えなくなった。
 シャルルが、そんな物を持っていたとは、暗視スコープを出して、腹這いになった。立った状態で下を覗き見るのは怖いので、わたしとダイアンも、それに習って腹這いになった。……すぐに分かったのだが、腹這いになってもやはり怖い。人間の頭は重い――頭から下に落ちていくような目眩を覚える……

 「順調だ」
 シャルルが、暗視スコープを貸してくれた。
 ――一瞬視界がぼやけた後、自動照準が合って、スルスルと降下する岩が緑色の蛍光色の中に浮かび上がった……。岩は、スムーズにすばやく降下していき、マシンの作動音も軽快だ――
 「すごいもの持っているのね」
 ダイアンだった。