『天使の翼』第5章(58)

 でも、何故……
 「……わたし、いつも、宇宙に出て、ワーム・ホールを通過していく時に見る夢があったのよ」
 わたしは、シャルルに話しかけながら、自分に納得のいく説明をしようと試みていた。
 「……祖母が出てきて……ごめんなさい。祖母は、五年程前に亡くなったんだけど――その祖母が、夢の中でわたしに語りかけてくるの……口をもぐもぐさせて――」
 「……つまり、何を言っているか分からない、ってことかい?」
 「ええ。シネマの音声だけが故障したみたいに……音のない夢。それが、今度のミロルダへの旅で、突然、祖母が何をしゃべっているか分かった――」
 「声が聞こえたんだね」
 「そうなの、突然。『ホワイト』と言ったのよ」
 「……『ホワイト』という口の動き、発音は、今まで君が見ていた夢の中のおばあ様の口の動きと、違和感はないのかい?」
 「そう思う……今まで祖母が『ホワイト』と言っているのに気付かなかったのが不思議なくらい……そして、それが分かってから、いつも旅の間中繰り返し見ていたこの夢を、全く見なくなったの――何故、突然分かったのか?そして、分かった途端に夢を見なくなったのか?それには理由があるはずよ――」

 シャルルは、大きく頷いた。彼は、わたしの突拍子もない話を真剣に聞いて、一緒になって考えてくれようとしている……
 「――白い封書だわ!白い封書のホワイト、そのイメージが、わたしの夢、音だけが封印された夢の扉を開いたのよ!……白い封書、それは、最初、何の害もない、ただの……文字通り白い封書だった……それが、あなたと話すうち、恐ろしい、危険な感触を帯びてきて、ノックの音がしだい次第に大きくなって――」
 「でも、それは、後から、白い封書が重大な意味を持っていると、そう気付いた原因であり状況だ」
 わたしは、虚を衝かれた。確かにその通りだ。――白い封書がまだ何も重大な意味を持っていると分かっていなかった段階で、何故、白い封書のイメージが、祖母の言葉を音声化する力を持っていたのか?……それでも、祖母の言葉「ホワイト」と白い封書の「白」の間には確実に関連がある、という思いは動かしがたい――わたしの全身がそう叫んでいる……