『天使の翼』第5章(54)
「それでは、最初の疑問に立ち返って、誰が招待状の宛名を書いたのか?――有力者の表向きの代理人ではないだろう……それでは、裏の仕事を引き受ける悪党か?」
「……」
「僕は、そうではないと思う――」
推論と断定――わたしは、彼の話にぐいぐいと引き付けられていく。
「――これは、推理というより、僕の過去のプロファイリングの経験から直感で言うんだけど――白い封書の招待状は、謂わば、吟遊詩人……ターゲットとなった吟遊詩人に対する逮捕令状、死刑執行命令だ。犯人の道ならぬ快楽ゲームは、招待状を発送する時点ですでに始まっている。つまり、有力者本人が書いたんだ」
わたしは、ぞっとした。――そして、わたしの心の中で、何かがカチリと音を立てた。
「……ということは、犯人である有力者は、ホテルにいて、直接君のことを目にしたに違いない。レプゴウ男爵のように、大使が君のことを見て自分の主人に推薦したとか、そういう問題ではないんだ――」
わたしは、はたと思い当たった。
「封書を回収しないと……封書の筆跡が――」
そして、急に老支配人のことが心配になった――
「恐らく、封書は、もうホテルにはないだろう。僕らを襲うと決めた時点で、回収策をとったはず――その封書には、発信器が細工されていたはずだ……支配人のことを心配してるんだろうけど、荒っぽい手段ではなく、人目につかずに、あるいは、窃盗か何かに偽装して、第一級の証拠となる封書は、闇に葬られてしまったに違いない」

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