『天使の翼』第5章(52)

 「犯人は、表の顔はあくまで善良というか、気取った有力者だ。周囲に評判が悪いと知られているゴロツキのはずがない……犯人は、ゴロツキとか、いかにも悪人らしい悪人といった、そんなかわいらしい人物じゃないよ。狡猾で、自分がとんでもない欲望の持ち主で、しかもその妄想を実行に移しているなんて事は、一切周囲に悟られないようにしているはずだ」
 ……と、言うことは――
 「最後に残った一通――それは、どんな招待状だったの?」
 「しまった!――」
 わたしは、思わず声を上げた。
 シャルルが慌ててわたしの唇に人差し指を押し当てた。
 ――ダイアンは、心身ともに疲れ切って眠っていた。
 「どうしたんだい?」
 「ごめんなさい……残る一通は、毛羽立った厚手の上質紙でできた、白い封書だったんだけど……わたしったら、変な先入観を持ちたくなかったから、差出人が誰だか聞きもしなかったの」
 わたしは、臍を噛んだ。くやしい……

 でも、シャルルは、意外と淡々としていた。
 「それはいいんだ。犯人は、まず招待状を使って僕たちを罠に陥れようとするだろう、といったけれど、それは、もちろん、偽名を使ってのことだ……犯人は、おそらく犯行のたびに別の名前を使っているだろうし、差出人の名前は、手掛かりにはならない」
 「……」
 「その手紙、他にどんな特徴があったか、覚えているかい?犯人が無意識に手掛かりを残しているかも知れない。自分を表すサインとか……」