『天使の翼』第5章(44)
これ以上ぐずぐずもしていられず、わたしとシャルルは、期せずして顔を見合わせた。
わたしの顔は、真っ赤だったと思う。洞窟の明かりのせいで、分かり難かったかも知れないが……
シャルルは、案外落ち着いた声で――
「寝よう」
と、言ってくれた。
変に説明を加えられるよりよっぽどいい。でも、ほっとしたのは束の間で、その後の自分の動作は、気持ちが動転していて全く覚えていない。
気付いた時には、わたしは、優しくブランケットにくるまれて、シャルルの横に横たわっていた。いつものように、右のお腹を下にして……いつもと違って、背中にシャルルの右半身のぬくもりを感じながら……
わたしは、自分の思いだけで胸がいっぱいだったのだと思う。しばらくしてから、シャルルが何か言ったのに気付いた――
「えっ?」
と、自分でも驚くほどそっけなく聞き返した。
シャルルは、笑って――
「ハハハ。言いにくいことを何回も言わせないでよ、デイテ」
「……」
「僕は、今付き合っている女性はいない、って言ったんだ」
「あら、そう……」
それが、わたしの最初の返事だった。こんなに幸せを感じているのに、わたしの言語機能は、わたしの気持ちを無視して――気持ちに反比例していると言ってもいい位だ――動いている……

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