『天使の翼』第5章(41)

 「お姉さん方、その装備で、洞窟隊商路を乗り切ろうってのかい」
 わたしとダイアンは、ぎょっとして声の主を振り返った。
 わたしの脳裡に描かれた、シャルルの思いを寄せる人のイメージ――まるで女神のように、ソフトなフォーカスの中で輝いている――は、いきなり、眼前のむさい中年男に入れ替わった。
 油染みた服を着たその男は、まるでガラクタ商人のように、見たこともない妙な機械を手押し車に満載していた。
 男は、にやりと笑って、1標準メートルほどの棒状の部分と30標準センチ位の大きさの丸っこい部分でできた機械を差し出した。
 「高性能ウインチだよ」
 (何に使うのかしら……)
 わたしは、ダイアンと顔を見合わせた。
 「このボタンを押すだけで、ケーブルがグイグイ巻き取られる仕組みさ。大の男二人だって軽々と引き上げることができる。このウインチを岩の上に固定するには、この足を――」

 そこで、男は、わたしとダイアンの怪訝な表情に気付いたようだ。
 「あんたら、洞窟は初めてか?」
 わたしとダイアンは、子供のようにこくりと頷いた。
 「まいったね。それで、その軽装か……。ちょっと考えたら分かるようなもんだが、洞窟ってのは、平らじゃない。この先何ヶ所か竪穴がある。うーんと深いやつ、300標準メートルを越えるのもある――」
 わたしは、頭痛がしてきた。次から次へと降りかかる難題……
 気付いた時には、わたしの口を衝いて言葉が出ていた。
 「買うわ」
 衝動的、としか言いようがなかった。
 〆て300ユナイト……高いのか安いのか、その時は、分からなかった……