『天使の翼』第5章(40)

 わたしとダイアンは、何故かお互いを意識してしまい、最初、黙々と自分の手元だけに注意を向ける振りをしていたのだけれど、とうとうダイアンが沈黙を破った。
 「素敵な人ね」
 「――えっ?」
 「シャルルよ。頭が良くて……」
 「……」
 ダイアンが小さく笑った。
 「……キュート」
 わたしは、肩をすくめるしかなかった。
 「ごめんなさい。お姉さまを前にしてこんなこと言ったら、怒られるわね?」
 わたしは、もう一度肩をすくめた。
 「……船が墜落しそうな時にも感じたんだけど、なんか、彼、
只者じゃないわ……なんか……」
 わたしは、話がそっちの方向に行かないように口を挟もうとした。

でも、その必要はなかった――
 「彼、彼女いるの?」
 わたしは、その質問に、鋭く胸を衝かれた。切ない思いが胸いっぱいに広がる……
 わたしの沈黙が長すぎたのか、ダイアンがじっとわたしの顔をのぞき見ていた。
 わたしは、顔が赤くならないよう、口ごもらないよう、必死の思いで――
 「さあ……どうかしら。そういう話はあまりしないから……」
 二重の意味で隠し事をしているわたしは、ダイアンの視線に疑惑を感じた。何か言えば言う程あやしくなると分かっていながら、絞り出すように言い訳の言葉を考えた……その時――