『天使の翼』第5章(37)

 わたし達は、判然としない気持ちのまま、しかし、正直ほっとした思いで、『洞窟隊商路』なるもの――初めて見る交通システムの中へと足を踏み出した。
 広い!
 それが、第一印象だ。
 もちろん自然の造形だから、ところどころ狭い部分もあるが、おおむね直径10標準メートルはある。そして、ほぼ道幅と同じ10標準メートルおきに、反磁場発生装置付きの照明装置が、天井近くを浮遊していた。薄暗くはあるが、相当の年月をかけて均されているとはいえ、段差もあれば階段状のところもある自然の道を歩くのに足りるだけの光量は確保されている。
 ミロルダという辺境の惑星に築かれた文明は、その峻厳な山岳地帯を貫く交通路を、地下に求めたのである。一本の洞窟が首府まで通じているとは信じがたいので、おそらく、地上において河と河を運河で繋ぐように、洞窟と洞窟を人工のトンネルで繋ぎ合わせて出来ているものと思われる。このシステムには、多くの利点があるのだろうが、わたしのような部外者から見ると、制約も多いように思えた。……たとえば、この地下深くまで容易に貫通してくる粒子はおのずと限られてくる――人類が交信に使うような電波は、届かない。