『天使の翼』第5章(35)

 その時――
 「誰かある!」
 わたし達の気配を察知した洞窟の関守(?)の誰何の声が上がった。
 わたし達は、シャルルを先頭に、巨大な岩の庇で雨から守られた松明の明かりの輪の中に歩み出た。
 シャルルは、おどけて、関守の老人の前でくるっと体を一回転して見せ――
 「吟遊詩人のデイテ、ダイアン、シャルルなるぞ。やれやれ間に合ったか。もう少しで恐ろしい野獣の餌食となるところだった!」
 わたしは、やりすぎじゃないかと思って、気が気ではない。
 老人はというと、最初ぎょっとした様子を見せてから、気を取り直し――
 「脅かしやがって!こんな時間、この雨の中、旅人が通るとは……。夕暮れ時に、落ちていく宇宙船を見たという隊商が通っていったから、てっきり事故に遭ったお人かと思ったが……」

 そう言って、彼は、わたし達の方に、キッと鋭い視線を投げてきた――だてに関守を任せられている訳ではなさそうだ……。わたしは、ダイアンの頬の傷に視線が行きそうになるのを、危ういところで押しとどめた。
 「へえー、宇宙船が落っこちたのかい?」
 「そうらしい。もっとも、この星の外の世界の事なんか、わしの知ったこっちゃないがね。それに、その船の乗組みがもし生きていたとしても、今頃は、ロック・タイガーの胃袋の中だて」
 「ロック・タイガー?」
 「知らんのか、旅人……」
 そして、老人は、突然口に指を突っ込んで、野太い声を出した……それは、まさに先刻わたし達が聞いた野獣の声だった……
 「体の大きさは、そうこれ位、六メートルはあろうかの。肩の高さだけで、大人の背丈の二倍近くある。水晶玉のような目玉がぎらぎら光って、それはそれは恐ろしいぞ」
 わたしは、心から神に感謝した。