『天使の翼』第5章(14)
人は、自分の周囲にいる人のことをよりよく知ろうとして質問を発する。――そういう意味で、わたしは、質問をしてよかったと思った。……シャルルは、その優しげな外見とは関係なく、男としてとても自信に満ちあふれていて、しかも、そんな自分でも、常に間違いを犯す危険のあることを、しっかりと自覚している。決して過信に陥ることなく、周囲で起きていることに目を見開いて、そして、たとえ相手が小さな子供であったとしても、その子供から何かを学ぼうとする柔軟さの持ち主だ、と感じた……シャルルは、彼の周囲にいる人すべてと、プラス思考で付き合う人間なのだ……そうすることが許される限りで……
「もっとも、僕は、ひねくれものだからね――」
シャルルは、話し続けた。
「――ぼくが査察官であることには、二つの落とし穴がある。一つは、僕が安全の保障を担っている帝国そのものが、善なのか?どうなのか?……二つには、どんな万全に見えるシステムも、いつかは、老朽化して崩壊するであろうということ……聖薬の独占による安全保障、その独占は、いついかなる形で崩れ去るとも限らない……」
シャルルの言いたいことは分かった。
――今が、まさにその時なのだ。
何が善なのか?
自分は、善の側に立っているのか?
信じ切っていた枠組みに、重大な綻びが生じてはいないか?
わたしとシャルルは、ともに深い物思いに沈んでいった……それは、何も考えず信じ切っていたものを、疑いの目で見直し、自分の心の中を一から構築し直すという……不安で苦しい作業なのだ……

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