『天使の翼』第5章(10)
わたしとシャルルは、そのままICS社の応接ブースで待つことは遠慮して、ターミナル・ビルの屋上に出た。
海からの風が心地よく、わたしは、束の間の解放感を覚えた。
屋上はフリー・スペースで、街頭芸人の稼ぎの場でもある――そこかしこで人だかりがしているのはそれだ……
わたしとシャルルは、お互いに打ち合わせるでもなく、自然と、「やってみようか」という態勢になった。
シャルルは、自分のバックの他に、ちゃんとギター・ケースを持参してきていた。シャルルは、ぎこちない所など微塵も見せずに、さらりとギターを取り出すと、その繊細な指で弦を爪弾いた……わたしは、その音色にうっとりとした――ソフトなのに、目から鼻に抜けるようにクリアーな音だ……その音は、場合によっては、ぐっとウエットにもホットにもなれそうだった……
便待ちの家族連れ二組と、奇抜なファッションのアベック一組がわたし達の前を囲んだところで、わたしは、シャルルに合図を送った――シャルルには、恋の歌でいくことをあらかじめ耳打ちしてあった――
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