『天使の翼』第5章(8)

 しかし、それは、一瞬の間だった。シャルルは、何事もなかったように――
 「もう一つだけ疑問がある。レプゴウ大使が、僕らを見い出したのであれば、何故、彼ないし彼女が直接僕らと会って、旅の差配をしてくれないのだろう?」
 「そうね。それは妙だわ。どうしても外せない用件があるのか?今この時点で、ポート・シルキーズを離れているのか?」
 「――または、僕らと会うわけにはいかない立派な理由があるのか?」
 「……」
 「まったく特別な理由はないのか、僕らにとってマイナスの要因――僕らには伏せておきたい要素があるのか、のどちらかだ……」
 「……そして、そのことは、『なるべく早くに』という要請とも関連してるのかも……」
 シャルルは、肩をすくめ、次いで、やわらかく笑った――明るくほがらかで、聞いてほっとする笑い声……
 「困ったね。最初から予想していたことではあるけど、今度の旅に、確定的要素は何もないね。――不確実性の海を、わずかな情報を頼りに泳いでいくようなものだ」

 ――不確実性の海……シャルルったら、いつもこんな調子なのかしら。わたしは、ちょっぴりおかしかった――要するに、『運任せ』ってことじゃない……
 「吟遊詩人として言わせてもらえば、招待状が、それもれっきとした帝国貴族からの招待状があるということは、確実性120%よ。いくつか分からないことはあるけど、それは、向うに着けば分かるわ。GO!よ。GOサインだわ!」