『天使の翼』第5章(3)

 わたしは、シャルルにいざなわれるままに、手近のベンチへと坐った。二人で海の方を見ながら……
 心地よい風が、肌を冷やしてくれる。
 心の波も、いつの間にか引いていく。
 「皇帝陛下は、無慈悲な方だ」
 「無慈悲だなんて……」
 「分かってるよ。でも、あなたのような優しい女性に、いきなり重い使命を与えたことも事実だ」
 ……おそらく、面と向かって、『優しい女性』などと言われたのは初めてだ……
 「とんだことで、見込まれてしまったね」
 わたしは、笑った。
 「『冗談じゃないわ』って、このことね」

 「ハハ……」
 シャルルは快活に笑い、また真顔になって言うのだ――
 「君のことは、僕が守って見せる」
 わたしは、いきなり心に直球を受けた。男の人から、君のことを守ってあげる、などと言われたのは、それこそ、生まれて初めてだ……まだ会ったばかりの二人なのに……
 「ふん、わたしの方こそ、あなたを守ってあげるわ、准王殿下」
 わたしは、照れ隠しの台詞に逃げた。
 シャルルは、肩をすくめて――
 「相互防衛協定が結ばれたところで、そろそろ赤黒い岩の招待状とやらを見せてもらおうか」
 わたしは、足元のバックから、重たい直方体を取り出して、シャルルに手渡した。
 「もう見たのかい?」
 「いいえ」
 シャルルは、爆発物でも扱うように、恐る恐る慎重に、件の直方体をためつすがめつした。
 「重い――それは、単に岩だから重いのか、それとも、中に構造物があるのか……。冷たい――それは、この岩の熱伝導率がそうなのか、それとも、中に冷却装置が内蔵されているのか……。一見して直方体を一周する筋が入っているが、それは、この箱……いや物体が、本当に身と蓋に分かれるのか、それとも、単なる見せかけにすぎないのか……。かたち――それは、封書らしく見せる演出なのか、それとも、内容物によって決まった形なのか……。赤黒い光沢――それは、何かの象徴か、それとも、メッセージか?」

 わたしは、あっけにとられていた。