『天使の翼』第4章(16)

 「みんな!そろそろ次の歌を歌いたいんだけど!……」
 ――わたしは、吟遊詩人としての弾き語りの経験をフルに動員して、観衆との間合いを取り、十曲近い歌を歌った。
 あくまで吟遊詩人らしく、わたしを含めた会場全体がアットホームな雰囲気に包まれるよう心掛けた。 
 自分で言うのもなんだけど、ショーを終えるころには、わたしの肌は、汗でじっとりと湿りを帯び、ほとんど素に近い顔は、きらきらと輝いていたと思う。
 多分、男性だけでなく女性も、わたしの歌と、わたしの歌う姿に、うっとりとしてくれたと思う……
 わたし自身、自分のショーに陶酔してしまっていたので、危うく忘れるところだったが、「実は、わたしには、一緒にステージに立つ弟――シャルルがいます。今度皆さんとお会いするときは、きっと、わたしの傍らに、ギターを携えた弟がいることでしょう。その時は、また、よろしく!」と、つけ加えて、わたしはショーを終えた。
 その日のポート・オブ・ポート・シルキーズのショーで、わたしは、事実上の取りを務めた。

 ステージ裏に戻ったわたしは、今度は、スタッフの皆から盛大な歓声を受けた。
 クールなマネージャー氏が、つかつかとわたしに歩み寄り、さっと手を差し出してきた。
 わたしは、素直に彼の手を握り返した。
 彼は、なんと言ってよいか分からなかったのだろう、ただただ首を振るばかり。それでも、ようやく――
 「あ、ありがとう。今日、あなたのステージを陰でお手伝いできたのは、ぼ、僕にとって……」
 「分かってるわ」
 わたし自身ハイテンションなっていたと思う。気付いた時には、彼の頬にキスをしていた。
 そして、支配人が、わたしの前に立った。
 わたしは、瞬間、話が長くなるのでは、と思ったが、老人は、すばらしい優しさを示してくれた。
 「本当にありがとう、デイテ。今はそれだけだ――」
 そして、彼は、小さなかわいらしいブーケをわたしに渡してくれた。
 「わしが、せめてあと二十若かったら……まあいい。今日はもう部屋に引き取って休みなさい。軽い食事と飲み物が部屋に用意されている。本当にありがとう」